知ったかブリタニカ

インドとスリランカの間には、瀬戸大橋の5倍もの長さの橋がかかっていた。でも人も車も通れないし、おまけにその橋のせいで船も通れない。

インド亜大陸から少し海を隔てたところに位置するスリランカのセイロン島。

実はこの島、アダムスブリッジでインドとつながっているという。

いやいや、スリランカとインドって、対馬と韓国ぐらい離れてますよ。日本の技術力をもってしても、対馬から釜山に橋をかけるなんて無理でしょうに。これはいったいどういうことなのか。

今日も辞書を片手にブリタニカ百科事典を紐解く……

アダムスブリッジの衛星写真
アダムスブリッジの衛星写真 左側がインド 右側がスリランカ
NASA [Public domain], via Wikimedia Commons

この記事はEncyclopedia Britannica(ブリタニカ百科事典)の記事Adam’s Bridge (shoals, India)からの引用を元に、独自研究を加えて自分なりの見解をまとめたものです。

引用元の英文にはすべて日本語訳をつけてますので、英語が苦手な方でも安心して読めるようになっています。

【コンテンツ構成例】

ブリタニカ百科事典からの引用部(英文)

・英単語注釈

日本語訳

・ブログ「知ったかブリタニカ」主筆マジオによる解説と見解

目次

アダムスブリッジとは

アダムスブリッジ の概要

Adam’s Bridge, also called Rama’s Bridge, chain of shoals, between the islands of Mannar, near northwestern Sri Lanka, and Rāmeswaram, off the southeastern coast of India

– Encyclopedia Britannica #Adam’s Bridge

shoal 浅瀬、砂州 coast 沿岸

アダムスブリッジはラーマズブリッジとも呼ばれ、スリランカ北西部付近にあるマンナル諸島と、インド南東部沿岸から離れたラーメシュワルムの間にある浅瀬の連なりである。

つまり……ブリッジとはいっても、実際の橋ではなく、橋のようなもの、というニュアンスか。浅瀬のつながりをブリッジと呼んでいるってことは、もしやインドとスリランカの間って、実は浅瀬を歩いて渡れるのか。

マジオ
マジオ
bridgeって(顔の)鼻梁とか、仲立ちとか、つなぎの部分という意味もあって、要は橋の形をしていたり、橋渡しの機能があればbridgeなんだね。

アダムスブリッジ の位置

The bridge is 30 miles (48 km) long and separates the Gulf of Mannar (southwest) from the Palk Strait (northeast). 

gulf 湾 strait 海峡

アダムスブリッジは長さ30マイル(48キロ)で、ポーク海峡(北東部)とマンナル湾(南西部)を隔っている。

48キロって、対馬と韓国の釜山ぐらいの距離か。関東地方で例えると東京〜鎌倉間ぐらいの距離だね。アダムスブリッジが二つの海をseparateしてるってことは、やっぱりインドとスリランカって、実はつながってるんだぐらいのニュアンスだよなぁ。


アダムスブリッジ
確かに、つながってるように見える……手前がスリランカ
PlaneMad [CC BY-SA 2.5], via Wikimedia Commons

アダムスブリッジの特徴

Some of the sandbanks are dry, and nowhere are the shoals deeper than 4 feet (1 m); thus, they seriously hinder navigation. 

sandbank 砂州、砂丘 nowhere どこにもない shoal 浅瀬 thus 従って seriously 深刻に hinder 妨げる navigation 航行

砂州のいくつかは乾いており、浅瀬はどこもかしこも4フィート(1メートル)より深い場所はなく、故に、(船舶の)航行に重大な支障をきたす。

水深1メートルじゃあ、漁船も通れないじゃないか。地図で遠目にみると、大型タンカーでも通れそうだけど、これはもう、インドとスリランカの間を船で通ろうなんて考えない方がよさそうだ。

頓挫したアダムスブリッジの水路開削計画

Dredging operations, now abandoned, were begun as early as 1838 but never succeeded in maintaining a channel for any vessels except those of light draft. 

dredge (泥などを)さらい上げる abandone (中途で)やめる channel 水路 vessel 船 except 〜を除いて draft (船の)喫水

いまはもうなされていない、アダムスブリッジの浅瀬の土砂さらいは早くも1838年には着工されていたが、喫水の浅い船以外の船を通れるよう水路を維持することはできなかった。

幅が48キロもあるのに、船が通れない水路ってどういうことよ。一番狭い場所が幅14キロジブラルタル海峡は言わずもがな、黒海から地中海に出るための(イスタンブールの)ボスポラス海峡ですら、幅が狭いところは1キロ未満しかないけど、大型船舶が通るための水深は十分にあるというのに。

インドとスリランカの間の地図を遠目にみると、船が通るための幅は十分ありそうに見えるが、拡大してみると、もしかしてここ船が通れないんじゃないかと思えてくる。

しかも、アダムスブリッジって浅瀬だよね。ということは、スエズ運河やパナマ運河作るより、ずっと簡単な工事のはずだと思うんだ。

となると、お金の問題かなぁ。まあ、インドとスリランカの間の海を船舶が通過できるようになったからと言って、すごいメリットがあるとも思えないしなぁ。

アダムスブリッジ に対する地理学的見解

Geologic evidence suggests that Adam’s Bridge represents a former land connection between India and Sri Lanka. 

suggest 暗示する represent 意味する former 以前の

アダムスブリッジの存在が、以前インドとスリランカの間が陸でつながっていたことの地理学的根拠となっている。

地球温暖化の逆を行って、もし海抜があと1メートル強下がったら、インドとスリランカは完全に陸続きになるわけだな。ということは、氷河期あたりは完全に陸続きだったんだろうなぁ。

アダムスブリッジの砂州
延々と続くアダムスブリッジの砂州
このような砂州と浅瀬が交互に連なっている

アダムスブリッジ に関する伝説

ヒンズー教の叙事詩、ラーマーヤナで語られるアダムスブリッジ

Traditionally, it is said to be the remnant of a huge causeway constructed by Rāma, the hero of the Hindu epic Rāmāyaṇa, to facilitate the passage of his army from India to Ceylon (Sri Lanka) for the rescue of his abducted wife, Sītā.

remnant 遺物 causeway 土手道 facilitate 容易にする passage 通過 army 軍隊

伝統的に、その巨大な土手の遺物は、ヒンズー教の叙事詩ラーマーヤナの主人公ラーマによって、彼の誘拐された妻シータを救出するため、インドからセイロン(スリランカ)へ彼の軍隊が進むのを容易にするために作り出されたと言われている。

なるほど、地理学的にはもともと存在したものとして考えるけど、宗教的にはその指導者が創り出したもの、と考えられているわけか。

アダムスブリッジとアダムスピークに関するイスラムの伝説

According to Muslim legend, Adam crossed there to Adam’s Peak, Ceylon, atop which he stood repentant on one foot for 1,000 years.

muslim イスラム教徒 legend 言い伝え cross 渡る Adam’s Peak アダムスピークというスリランカにある山。山岳信仰で有名。 atop 頂上に stood(standの過去形)……の状態にある repentant 懺悔する

イスラムの伝説によれば、アダムはアダムスブリッジを渡り、セイロンのアダムズピークで1000年間片足で懺悔した。

ああ、なるほど。アダムスブリッジのアダムって、誰のことかと思ったら、あの高名なアダムさんのことか。なんで聖書に出てきそうな人の名前がインドやスリランカに? と思ったけど、このアダムさんって、実はイスラム教のコーランにも登場してるらしい。そういえば、キリスト教のゴッドとイスラム教のアラーは同一のものを指してるんだよ、と昔聞いたことがあるなぁ……

アダムスピーク。標高2243メートル。頂上に寺院がある。
この辺り一帯は「スリランカの中央高地」として世界自然遺産に登録されている。

さらに調べを進めてみると、なんとこのアダムスブリッジ、約500年前までは、本当に歩いて渡ることができたらしい。実はインドからスリランカって、歩いて行けたのか!

するといまはずいぶん中途半端な状態じゃないか。アダムスブリッジがあるから船が通れない。かといって人や車がこの橋を渡ることができるわけでもない。これはもしや、世界で一番役に立たない橋ってことではなかろうか。

でも、アダムスブリッジの水深って、深いところでも1メートルぐらいだよね。ということは、もしかして今でも歩いて渡れるんじゃないか。

アダムスブリッジの砂州
これぐらいなら、歩いて渡れそうな気もするが……

マジオ
マジオ
教えてグーグル先生!

すごく迂回しないと行けないようだ…

マジオ
マジオ
ダメなのか。しかも、フェリー使ってもこんなに迂回しなきゃならんのか。

かつて陸続き(だったと思われる)両国も、今やこんなに遠い国なんだなぁ。いや待て、幅34キロのドーバー海峡だって泳いで渡る人がいるんだから、深さ1メートルしかない上に、休める砂州や島が無数にあるこのアダムスブジッリ、歩いて渡れないわけがないような気がするが……誰も挑戦しないのか。

これ、絶対話のネタとして面白いと思うんだ。インドに旅行して、ついでに歩いてスリランカまで行ってきたんだ、なんて話をする人がいたら、耳を傾けざるを得ないとぼくは思うのですよ。

マジオ
マジオ
誰かやった人いないのかなぁ……


アダムスピークの寺院(1909年)
アダムスピークの寺院(1909年)
AnonymousUnknown author [Public domain], via Wikimedia Commons

アダムスピークの山頂には、人の足跡の形をした大きなくぼみがあり、それを仏教徒はブッダの足跡と考え、イスラム教徒はアダムの足跡と考え、ヒンズー教徒はシヴァ神の足跡と考え、キリスト教徒は聖トーマスの足跡と考え……いずれにせよアダムスピークは諸宗教から霊峰と見なされている……異教徒同士でもわりと仲良くやってるんだなぁ。