2010年3月、アイスランドのとある火山が噴火。同4月、その噴煙が大西洋を渡って、ヨーロッパ諸国まで届くと、多くのフライトがキャンセルされた。
これは自然災害による航空混乱としては最大級のものであったにもかかわらず、人々はその原因となった火山の名前を口にしようとしなかったという。
その謎を紐解くため、ブリタニカ百科事典のその火山の項目を開いてみると、一行目からいきなりとんでもない事実が書かれていた。
この記事はEncyclopedia Britannica(ブリタニカ百科事典)の記事Eyjafjallajokull volcano (Location, Eruption, & Facts)からの引用を元に、独自研究を加えて自分なりの見解をまとめたものです。
目次
エイヤフィヤトラヨークトル火山の概要
その名を誰も口にしない理由
Eyjafjallajökull volcano, also called Eyjafjallajökull, Eyjafjalla volcano, Eyjafjöll, or Eyjafjalla Glacier volcano, subglacial volcano, southern Iceland, lying within the country’s East Volcanic Zone.
– Encyclopedia Britannica #Eyjafjallajökull volcano
volcano 火山 glacier 氷河
要するに、このホニャララという火山はいろんな呼び名があるけど、とにかくsubglacialな火山で、アイスランドの南部にあって、同国東部の火山地帯(Volcanic Zone)にあるよってことだ。
“subglacial”は辞書にもないなぁ。sub+glacialで、「氷河の底」ってニュアンスのようだ。submarineが海底とか潜水艦を意味するのと同じように。
氷底火山、つまり、氷と炎という真逆の性質のものが共存しているわけか。氷の大地から突然火柱が上がるだなんて、ファンタジー系ロールプレイングゲームの世界観みたいだ。
それにしても、これ、なんて読むんだ。冒頭に引用したこの一文をを、パソコンの音声読み上げ機能を使って読ませてみたが、やはり呪文だこれ。
英語がネイティブな人はこれが読めるのだろうかと思って調べてみると、やはりみんな読めないらしい。
YouTubeを漁ってみたところ、アナウンサーですらこの火山の名前を発音できないというネタがゴロゴロ出てきた。ちなみに、この火山の名前はこう発音するらしい。
これを日本語風にカタカナ表記すると「エイヤフィヤトラヨークトル」という具合になるようだが、これだって読みにくい。
きっと当時は「アイスランドの火山の噴火でさぁ」という具合に、会話の際もその火山の名前は口にしなかったことだろう。
名前の由来
Its name is derived from an Icelandic phrase meaning “the island’s mountain glacier,” and the volcano itself lies beneath Eyjafjallajökull (Eyjafjalla Glacier).
derive 〜に由来する glacier 氷河 volcano 火山 beneath 〜の下に
その名の由来は、「島の山岳氷河」というアイスランド語のフレーズで……そのまんまかい! と思わずツッコミを入れたくなったが、世の中の地名とはそんなもんだろう。
Tokyoだって東の都だし、欧州に流れるドナウもラインも語源はただの「川」だ。(そういえば、そもそもアイスランドって国の名前そのものが、そのまんまだよなぁ)
“and the volcano itself lies beneath Eyjafjallajökull (Eyjafjalla Glacier). “それで、火山そのものは、氷河の下にあると……。
火山が氷河に覆われているというわけか。すごい図だな。
過去の噴火の記録
Records kept since Iceland was settled show that Eyjafjallajökull volcano erupted in 920, 1612 or 1613, and 1821–23.
settle 定住する erupt 噴火する
噴火頻度は富士山より低そうだ。個人的にはsettleという単語が気になっていて、調べてみるとやはりsit, seat, setと同語源とある。
今回の噴火について
噴火の序章
The Eyjafjallajökull eruption of 2010 began in January with the onset of clusters of small earthquakes, and by early March the earthquake activity had increased in intensity and frequency. On March 21, fountains of lava began exiting through a 0.3-mile- (500-metre-) long vent in the ice-free Fimmvörduháls Pass, which separates the Eyjafjallajökull glacier from the larger glacier Mýrdalsjökull to the east.
eruption 噴火 onset (よくない事の)始まり cluster かたまり・一群 intensity 激しさ fountain 噴出 lava 溶岩 vent (火山の)噴気孔
fountainはよく噴水(装置)という意味使われているのを見かけるけど、ここでは「湧いて出てきたもの」ぐらいの意味か。
そのフィムヴォルズハウルス孔ってのは、エイヤフィヤトラヨークトルの東側のミールダルスヨークトル氷河との間にあって……おっ、おう、地図を見ると確かにそうだ。(アイスランド語め……)
溶岩の露出
On April 14, lava from new fissures surfaced beneath the crater of the glacier-covered summit.
fissure 裂け目 beneath 〜の下に crater 噴火口
ということは、火口は普段凍っていて、そこがひび割れて溶岩が出てきたということか。氷塊がバリバリ割れて、そこから眠っている(封印されている)何かが出てくるというシチュエーションにはなにか気持ちを昂らせるものがある。
火口の氷層融解
The heat from the lava quickly melted and vaporized the glacier ice above.
lava 溶岩 vaporize 気化する
この擬人法はかっこいい! aboveが変な位置にあるが、これは後置修飾か……ん? もしかしてこれ、avobe the glacier ice という具合に前置修飾すると、溶岩の熱が氷の上から来たというアベコベの意味になっちゃうってことか?
溶岩による国土の損傷
Mud, ice, and meltwater running off the volcano swelled local rivers and streams, especially the Markarfljót glacial river west of the volcano, which flooded farmland and damaged roads.
meltwater 氷雪が解けた水 swell (帆などを)膨らませる(河水などを)増水させる
うーむ、”glacial river”ってglacier(氷河)とは違う意味で使われているような気がする。これは氷河によって形成された谷を通る川っていう意味のような気がする。 (この川は水位が急に変わりやすいことで悪名高い川だとWikipediaに書いてあるしなぁ)
“which flooded farmland and damaged roads. “というこの一文で、とりあえずアイスランドにも農場があるらしいことはわかった。
失礼な、って思うかもしれないけど、アイスランドって自称「氷の国」だよ。北緯64度って太平洋側で例えると、ロシアとアラスカの間のベーリング海峡と同じくらいの緯度で、ほぼほぼ北極圏だ。
北大西洋海流の影響で、緯度のわりには寒くないかもしれないけど……と思いながら、泥土に呑まれたというMarkarfljót glacial riverのあたりをGoogle Mapのストリートビューで調べてみる。
どうやらfarmlandというのは、牧草地のことらしい。時々遠くに白い物体が見えるのは羊だろうか。あいつら、自前のウールのセーター持ってるから、多少寒くても大丈夫なのだろう。
ところで、アイスランドの人は野菜不足に悩むことはないのだろうか……
噴煙に覆われた範囲
The plume was driven southeast, across the North Atlantic Ocean to northern Europe, by the prevailing winds.
plume (雲や煙の)柱 drive (風や水が)〜を押し流す prevailing 優勢な
” prevailing wind”自体は卓越風(その地域で一番頻度の高い風向き)という意味しかないが、地理的に考えてこれは偏西風。
噴煙がもたらした航空機への影響
Fearing the damage to commercial aircraft and potential loss of life that could result from flying through the ash cloud, many European countries closed their national airspace and grounded flights for several days.
fear 怖れる ash 灰 ground (故障や霧などで)飛行機を陸に接地させたままにする(離陸不能にする)
“and grounded flights”このgroundの動詞としての使い方がおもしろいな。飛行機が陸で足止めになるという意味の他に、船が座礁するという意味もあるらしい。どちらも不本意な接地というニュアンスか。
このEyjafjallajökull volcanoに関する記事を読み進めていくうちに、そういえば、当時、火山噴火でヨーロッパの航空便が大混乱というニュースがあったなぁと、だんだん思い出してきた。
YouTubeには、(英語圏の)アナウンサーがこの火山の名前を発音できないネタがたくさんアップされているのだけど、日本のアナウンサーはどうだったのだろうか。
たぶん「アイスランドの火山が」って言ってたんじゃないかなぁ。
これより随分前の、ピナツボ山の噴火については、ぼくもちゃんと火山の名前を覚えているからなぁ。