知ったかブリタニカ

やはりヴァイキングはコロンブスに先んじてアメリカまで来ていた。しかも10世紀に。タフガイ達を運んだ夢のテクノロジー。

小学生か中学生の頃、アメリカ大陸を発見したのはコロンブスだと教わった。高校生になると、コロンブスが「発見」する前からアメリカ大陸はそこにあったし、人も住んでいたのだから「発見」というのはおかしいという言説に触れた。

その後、コロンブスよりも先に、実はヴァイキングがアメリカ大陸に到達していたという小ネタをどこかで知った。

でもそもそも、ヴァイキング船に大西洋横断能力なんてあったのだろうか? 今日も辞書を片手にブリタニカ百科事典を紐解き、その謎に迫る。

バイユーのタペストリー
Musée de la Tapisserie de Bayeux [Public domain], via Wikimedia Commons

この記事はEncyclopedia Britannica(ブリタニカ百科事典)の記事longship (Definition, History, & Facts)からの引用を元に、独自研究を加えて自分なりの見解をまとめたものです。

引用元の英文にはすべて日本語訳をつけてますので、英語が苦手な方でも安心して読めるようになっています。

【コンテンツ構成例】

ブリタニカ百科事典からの引用部(英文)

・英単語注釈

日本語訳

・ブログ「知ったかブリタニカ」主筆マジオによる解説と見解

目次

ロングシップ(バイキング船)とは

ロングシップの概要

Longship, also called Viking ship, type of sail-and-oar vessel that predominated in northern European waters for more than 1,500 years and played an important role in history.

-Encyclopedia Britannica #Longship

sail 帆 oar オール vessel 船 predominate 優勢である  waters 近海・海域

ヴァイキング船とも呼ばれるロングシップは、帆とオールで動く船で、1500年以上にわたって北欧近海で優勢を誇り、歴史上重要な役割を担った。

あのバイキングが乗っていた船はロングシップと言うんだね。帆も使えるから、オールだけの場合に比べて長い航海ができるハイブリッド動力の船ってことだ。

1500年以上って、一つの船のタイプにしてはずいぶんと寿命が長いな。”northern European waters “のwatersは近海とか海域という意味で使われる単語で、waterの複数形。

マジオ
マジオ
water(水)って複数形になると、塩水になっちゃうということか!?

ロングシップ(ヴァイキング船)は帆とオールの両方に対応していた

ロングシップの基本仕様

Ranging from 45 to 75 feet (14 to 23 metres) in length, clinker-built (with overlapped planks), and carrying a single square sail, the longship was exceptionally sturdy in heavy seas.

range (〜の)範囲にわたる clinker-built (船の外板が)よろい張りの overlap 重ねる、覆う plank 厚板 square sail 四角帆 exceptionally 非常に sturdy しっかりした、頑強な heavy sea 荒波

長さは45フィートから75フィート(14メートルから23メートル)、厚板が重ねられたよろい張りの外板、それに四角帆を有するそのロングシップは、荒波の中でも非常に安定していた。

よろい張りというのは、上の板の端が下の板にかぶさるように重ねていく板の張り方のことらしい。


よろい張りの舷側
clinker-built(よろい張り)の舷側
Andy Dingley [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

ロングシップの原型は丸木舟

Its ancestor was, doubtless, the dugout, and the longship remained double-ended. 

ncestor 先祖、前身、原型 doubtless おそらく、疑いなく dugout 丸木舟

その原型はおそらく丸木舟であり、ロングシップはdouble-endedを維持していた。

マジオ
マジオ
なんだろ、この”double-ended”って。辞書にもないぞ。

double-ended shipで画像検索すると、なぜかフェリーの画像がたくさん出てくる。どうやら、車が船首側からも船尾側からも乗り降りできるフェリーのことをdouble-ended ferryと呼ぶらしい。

どっち側もendになってる仕様ということか。そういえば、丸木舟には前も後ろもなさそうだが、もしかして、ロングシップって前後ろがないってことか。


バイキングのロングシップ
四角帆にdouble-endedなバイキングのロングシップ
No machine-readable author provided. Ningyou assumed (based on copyright claims). [Public domain], via Wikimedia Commons

なるほど、絵を見ると一目瞭然。丸木舟と同じで、基本的には前後対称だから、どっちにも進めそうだ。

マジオ
マジオ
回頭しなくていいのか。上陸先で「おいた」をした後、ズラかる時に便利そうな仕様だなぁ……

dugoutは丸木舟という意味の他に、防空壕とか、野球場のダッグアウトという意味があるようだ。要するに掘って空間を作ったもののイメージか。ん、dugoutって、きっとdug+outだよな。dugはdig(掘る)の過去形・過去分詞形か。ということは、やはりコアイメージは掘り出したもの……だからdugoutは丸木舟に防空壕に野球のダッグアウトなのか!

最古のロングシップの実例

Fully developed examples have been found dating from 300 BCE.

fully 十分に BCE 紀元前

十分に完成された(ロングシップ)の実例は紀元前300年から見受けられる。

ロングシップの活躍した時期は1500年以上と最初にあったから、これで計算が合うな。おしりは13世紀ぐらいまでか。

ロングシップの活躍

レイフ・エリクソンのアメリカ到達

It carried the Vikings on their piratical raids of the 9th century and bore Leif Eriksson to America in 1000. 

piratical 海賊の(ような) raid 不意の襲撃、(略奪を目的とした)侵入 bore to 運んだ(bear toの過去形)

ロングシップは、海賊行為を働く9世紀のバイキングを運んだり、西暦1000年にはレイフ・エリクソンをアメリカに運んだりしている。

コロンブスより前にバイキングがアメリカ大陸を「発見」していたという話を聞いたことがあるが、このレイフ・エリクソンという人のことか。西暦1000年だから最初のミレニアム、ギリギリ10世紀だ。


バイキングの定住区画と航海図
バイキングの定住区域と航海図。1000年にVinlandに到達したのがレイフ・エリクソン
en:User:Bogdangiusca [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

マジオ
マジオ
レイフ・エリクソンが到達したVinland(ヴィンランド)っていまのカナダのニューファンドランド島北部ね。

そこにあるランス・オ・メドー史跡は、ヴァイキングが西暦1000年ごろに北米に入植していたことを裏づけるユネスコの世界文化遺産なんだ。


「レイフ・エリクソンのアメリカ発見」(1893) クリスチャン・クローグ
「レイフ・エリクソンのアメリカ発見」(1893) クリスチャン・クローグ
ノルウェー国立美術館所蔵
Christian Krohg [Public domain], via Wikimedia Commons

バイキング以外のロングシップ使用例

 It was also used by Dutch, French, English, and German merchants and warriors. 

merchant 商人 warrior 戦士

ロングシップはまた、オランダ、フランス、イングランド、ドイツの商人や戦士を運んだ。

ロングシップはバイキング専用の船、というわけでもなかったということか。商人も運んでいるところを見ると、ロングシップ自体は交易にも使われていたってことだな。

ロングシップのテクノロジー

バイユーのタペストリーから推察される横風時の帆走能力

Some of the 11th-century versions shown in the Bayeux Tapestry have their masts supported by shrouds, implying that their square sails could be manipulated enough to sail with the wind abeam. 

Bayeux Tapestry バイユーのタペストリー(ノルマン・コンクエストをテーマにした刺繍画として有名) mast (船の)マスト shrouds シュラウド(という船の索具) manipulated 巧みに操作する sail 帆を操作する abeam (船の)真横に

バイユーのタペストリーに見られるいくつかの11世紀のバージョンは、ロングシップのマストがシュラウドによって支えられており、それが暗に、ロングシップの四角帆が横風でも十分に帆走できるよう、巧みに操船されていたことを示している。

マジオ
マジオ
苦しい訳だけど、こんなところかな

用語の説明。まずシュラウドから。これ、翻訳物の海洋冒険小説なんかにでてくる言葉で、帆船のパーツ。マストを支える役割を持った索具のこと。網状になっていているのは、水夫がマストに登るための足場として使うから。


シュラウドの説明図
これがシュラウド
KDS4444 at English Wikipedia [CC BY 3.0], via Wikimedia Commons

話の流れから察するに、シュラウドでマストを支えている船は、横風でも前に進む能力を持っていた、ということだろう。


バイユーのタペストリー
バイユーのタペストリー
Musée de la Tapisserie de Bayeux [Public domain], via Wikimedia Commons

それで、これがバイユーのタペストリーというやつ。シュラウドは……うーん、ロングシップのシュラウドは網状ではないみたいだねぇ。マストの高さが登る必要もない高さだから、こういう仕様なのか。

船尾舵の導入とロングシップの変容

The introduction of the stern rudder about 1200 led to the differentiation of bow and stern and the transformation of the longship.

introduction 導入 stern 船尾 rudder 舵 differentiation 区別 bow 船首 transformation 変形

1200年頃の船尾舵の導入により、船首と船尾が区別され、ロングシップは変容していった。

やっぱり、最初に書いてあった通り、それまではdouble-endedで、どっちが前でもよかったというわけだ。

それが、船尾舵の導入で、その後の船は前後が固定されるようになった、という話の流れか。

船尾舵というのは、今の船がそうであるように、船尾の底に固定された舵のことだろう。

その前の時代の船は、舵を手に持った操舵手が船の右後ろにいたはずだ。(船の右回頭を意味する面舵の号令は、英語だとStarboardだが、これはsteer board—操舵する側—が変化したもの)


激写されたバイキングのご一行
激写されたバイキング御一行。船の右後ろに舵が見える。(写真左)
Henrique Pereira [CC BY-SA 4.0], via Wikimedia Commons

なぜ舵が右側についていたかというと、単に右利きの人が多いから。

ちなみに、左回頭の取舵はPort(the helm)で、これは舵が右側だったから、港に接岸するときは、左舷をつけたことに由来する。

ロングシップでの航海再現

それにしても、こんな船、といったら失礼だが、これで大西洋を渡ってアメリカ大陸へ行ったなんて、想像できるだろうか。

レイフ・エリクソンの航路を見ると、ラブラドル海を渡ってグリーンランドから今のニューファンドランド島まで航海しているが、このあたりは夏でも相当気温が低いはずだ。

上に示した「レイフ・エリクソンのアメリカ発見」の絵でも、船内に海水が入り込んでいる様子がうかがえ、おそらく相当冷たい海水を浴びながらの航海だと思うが……

ロングシップでラブラドル海を航海すると、こんな感じになるらしい。

やはり冷たい波をもろかぶりしながらの航海だったようだ

マジオ
マジオ
やはり帆船は男のロマン!

上の動画では、多くのシーンで四角帆が船体に対して平行に近い角度で張られていることが確認できる。

ということは、バイユーのタペストリーのところでも少し話が出ていたが、やはりロングシップは横風でも帆走できたということだ。

調べてみると、どうも帆船というのは、追い風よりも横風の時の方が早く進めるらしい。追い風のときは風の速度がそのまま最大船速だが、横風だと船足が早くなっても船と風の相対速度は変わらないから、より効率的に風力を利用できるとか……

風に押されて進むというよりは、風で膨らんだ帆が、ちょうど飛行機の羽のように揚力を生んで、その揚力で進むとか……バイキングは多分、揚力なんて知らなかったのだろうけど、経験でその力を知っていた、ということなんだろうなぁ。

こうやって地図をじっくり眺めてみると、北欧→アイスランド→グリーンランド→北米大陸というルートなら、10世紀の航海術でもなんとかなるかもしれないと思えてくる。寒さを度外視できるのであれば……の話ではあるが。荒波に耐え、横風をも活用できるロングシップのテクノロジーもすごいが、それをこの酷寒の海で操ることのできるバイキングの知恵と体力は驚異的だ。